小学館「幼稚園4月号」記事
第13回きょういく最前線 育まれるのは体・心・頭!!自己表現がつくリトミック
今や定番ともいうべき習い事「リトミック」。しかし、実際の内容や効果をきちんと把握しているお母さんは少ないのではないでしょうか。そこで読者モデルの彩希ちゃんとリトミック教室を訪問。5歳児クラスを体験しました。
感じたことを体で表現するのがリトミック
今回訪れたリトミック研究センター(東京・代々木)は、子供のためのリトミックを全国展開しているNPO法人です。まず、会長の岩崎光弘先生にお話をうかがいました。
「リトミックは本来、音楽家を目指す小学生から大学生のための教育指導法だったんですよ。創案者のダルクローズ(スイスの音楽家・教育者)が、実践していくうちに、それが集中力や理解力、そして創造力や表現力など、社会生活を送る上で、有効な力を育む事が実証され、徐々に学校教育や幼児教育に取り入れられうようになったのです」
さらに、その中身についても、意外なことが判明。
「リトミックは、決められた振り付けと音楽で繰り返し行うお遊戯や体操とは異なります。子どもが見て、聴いて、感じ、自分で考えたことを身体全体で表現するのが基本。自己表現力をつけることが一番のねらいです。指導者の頭の中にレッスンの流れはありますが、その展開は子どもの反応によって随時変わっていきます。例えば、音楽も子どもの動きにそって即興でつけるのが普通です」
これまでリトミックは、体操やお遊戯とあまり変わらないものだと思っていた私たちはびっくり。レッスンは一体どんなものになるのでしょうか。
充実のレッスンで身体と心と頭がフル回転
彩希ちゃんが体験した5歳児クラスの定員は6〜8名。毎週毎週一回、60分間行われます。幼児の習い事としては、かなり長時間のlレッスンで、初体験の彩希ちゃんが、どこまでついていけるのか、ちょっぴり不安が頭をよぎります。しかし、その心配は無用でした。レッスンがいったん始まると、先生の言う言葉のイメージにあわせて身体を動かしたり、歌ったり、リズムにあわせて歩いたり、次から次へと展開していき、退屈する暇もありません。さまに、身体と心と頭がフル回転することが必要です。彩希ちゃんは、最初のうちこそ緊張していましたが。お友だちにも違和感なく溶け込んで、終了後は「楽しかった」を連発。担当した石田先生からも「よくできたわね」とお褒めの言葉をいただき、とても嬉しそうでした。彩希ちゃんのお母さんも「子どもの体と動きとリズムの感覚を鍛えるだけでなく、音符を読み、歌い、体が動けるようになるところまでもっていくのはかなり高度だと思いました」と満足していました。
岩崎先生によると、「大人がリトミックをすると自分自身が変わったと言う」そうです。リトミックは体の即時反応や表現力だけでなく、心を解放し、創造性を持ってのぞむことが求められます。既成概念が強く、周囲の目を気にする大人は変わらざるを得ないのでしょう。
「自分をしっかり持って、自己を表現することは、これから国際社会を生きていく上で欠かせない力。リトミックで真の国際人として行動できる力を養ってほしい」と岩崎先生。確かに体も心も柔らかい幼児期に体験する価値は大いにあると思います。ただし、その場合は「家庭でのお母さんのサポートが大事」と石田先生。「子どもに指示するだけでなく、お母さんも一緒に楽しんですること」は他の習い事と同様、欠かせないようです。
reportはじめにリズムありき小林宗作が目指した総合リズム教育とは!?
ダルクローズに直接師事し、日本に初めてリトミックを導入した小林宗作は、国立音楽大学付属幼稚園で「総合リズム音楽」を実践したという。今なおその教育理念が息づく、この幼稚園を訪ねてみた。
園長の青木久子先生によれば、総合リズム教育は「すべての生き物にはリズムがあるという理念」からきている。
「そのリズムを大事にし、開発することで、音楽する喜びや表現能力だけではなく、柔軟な心と体、思考力を育むことができる」という。そのため、特別にリトミックの時間を設けていない。あえてしているのは「自然界が持つリズムを体で感じ、取り込むこと」。例えばススキの穂の揺れにあわせて体を揺らし、虫の音に耳を傾け、そして口ずさむ。さらにその動きや音を園に戻って身体で表現し、それに合わせて先生と子どもと一緒に曲をつくり、音楽で遊ぶ。それ以外は、会話や遊び、食事など生活のリズムを大事にし、子どもたちの意思を尊重して園生活を送っているという。
見学時、園児たちは、年少から年長まで自由遊びをしていた。「普通に遊んでいるようにしか見えないかもしれませんが、どの子も自分のリズムを持っているんですよ」と青木先生。そう言われてみると、どの子どもも遊びへの集中力が凄い。出された道具は少ないけれど、工夫をして、次から次へ新しい遊びを生み出している。園では年に一度「表現の集い」があるが、既存のお遊戯や劇を発表するのではなく、園児が表現したいものをたった1〜2週間で創作し、発表するという。作り上げていく過程と作品をビデオで見たが、主役は子どもで、先生はサポートするだけ。どの子も積極的に参加し、作品の出来栄はすばらしいの一言だ。生き生きとした普段の生活の中で蓄積されたパワーとリズムがあるからこそ、実現するのではないかと思った。
(取材.文/山津京子/小学館/幼稚園)